吉川医薬経済レポート

 吉川 徹氏(吉川医薬研究所代表;元第一製薬褐、究管理部長、埼玉第一製薬鰹務取締役)が、月1回平均のペースでレポートします。
 テーマは、新薬開発、製薬業界など医薬経済分野を対象としています。


●What' New





2003年1月号のトピック![2002.12.25]

セルフメディケーションと一般用医薬品





セルフメディケーションと一般用医薬品

●1.一般用医薬品関連商品の市場推移

 02年12月11日(水)厚生労働省から「平成13年薬事工業生産動態統計年報の概要」が発表された.その中から一般用医薬品関連品の生産額の推移を抜粋して示す.

単位:億円

分類

97

98

99

00

01

一般用医薬品

8,821

8,392

7,930

7,550

7,214

配置用家庭薬

685

664

588

541

540

医薬部外品

5,317

5,497

6,244

6,481

6,566

合計

14,823

14,553

14,762

14,572

14,320




 97年からの5年間で,一般用医薬品は81.8%に,配置用家庭薬は78.8%に縮小し,医薬部外品は123.5%に拡大した.一般用医薬品の縮小と医薬部外品の拡大は,99年からビタミン含有のドリンク剤などが,医薬品からはずされ,医薬部外品に移行した一過性の効果も寄与していると考えられるが,合計でみると00年以降退潮気味に推移している.

 次に,関連商品として,健康食品の市場推移に関する『食品と開発』編集部の推定値を集計して示す.

単位:億円

分類

97

98

99

00

01

ダイレクト・セールチャネル

-

4,350

4,800

5,300

7,100

薬系チャネル

-

1,450

1,550

1,600

1,700

専門店・百貨店チャネル

-

1,100

1,150

1,200

1,070

健康食品合計市場規模

6,600

6,900

7,500

8,100

9,870

『食品と開発』(CPMジャパン梶j,00年3月号,01年3月号,02年3月号による.97年のチャネル別市場は未調査である.




 この数字には,特定保健用食品は一部チャネルを除き含まれていない.97年からの5年間の合計の伸びは1.50倍に達する.販売チャネル別にみると,ダイレクト・セールチャネルの伸長が著しく,専門店・百貨店チャネルは退潮気味,薬系チャネルは微増傾向を示している.ダイレクト・セールでは,宣伝講習販売,通信販売,カタログ販売,TVショッピングなどの伸びが大きいという.専門店・百貨店チャネル(食系チャネル)では,店舗数の減少と,ダイレクト・セールチャネル,薬系チャネルとの競争で落ち込んだとされている.

 特定保健用食品の市場推移について,日本健康・栄養食品協会のアンケート調査に基づく推定値を示す

単位:億円

分類

97

98

99

00

01

 

整腸関連

乳酸菌

979

-

1,863

-

3,171

食物繊維

119

-

116

-

128

オリゴ糖

104

-

91

-

56

整腸関連小計

1,202

-

2,070

-

3,355

むし歯

0

-

4

-

187

血糖値

7

-

5

-

184

中性・体脂肪

0

-

70

-

152

ミネラル

92

-

45

-

114

血圧

14

-

72

-

100

コレステロール

0

-

4

-

28

特定保健食品合計

1,315

-

2,270

-

4,120

(財)日本健康・栄養食品協会調査.『食品と開発』,02年3月号4ページより引用.隔年調査のため,98年,00年のデータはない.

 

 特定保健食品市場は,97年からの5年間で,3.13倍になっている.乳酸菌関連の整腸領域が大部分を占めてきたが,血圧,血糖値,コレステロールなどの生活習慣病予防と,中性・体脂肪のような生活の質(QOL)の改善・向上に関する領域の漸増が注目される.

 以上に掲げた3種類の統計は,それぞれ異なる方法による異なる状況(生産額,販売額)を示すデータであるが,それぞれのジャンルのおおよその市場規模を表すものと考えて単純比較をして,01年のおおよそのシェアーを算出してみる.

市場規模の単位:億円

ジャンル

01年のおおよその市場規模

構成比(%)

一般用医薬品

7,214

25.5

配置用家庭薬

540

1.9

医薬部外品

6,566

23.2

健康食品

9,870

34.9

特定保健用食品

4,120

14.5

合計

28,310

100.0

 

 WHOによると,セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち,軽度な身体の不調(minor ailments)は自分で手当てすること」とされているという(02.11.18.一般用医薬品承認審査合理化検討会の中間報告書による.).上表の5ジャンルは,いずれもセルフメディケーションに該当するのではあるまいか? とすれば,セルフメディケーションの市場規模は,2兆8千億円程度にのぼる――換言すれば,国民の可処分所得から2兆8千億円程度がセルフメディケーションに消費されているということになろう.

 



●2.中間報告とその実現へ向けて

 02年11月18日発表の一般用医薬品承認審査検討会の中間報告書「セルフメディケーションにおける一般用医薬品のあり方について」(http://mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1108-4.html)によると,国民のニーズを反映した一般用医薬品の範囲の見直しとして,次の4ジャンルを提言している.

 

ジャンル

例示

生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防

検査で軽度の血清高コレステロール,高血圧,高血糖が発見され,そのままにしておくと,将来,高コレステロール症,高血圧症,糖尿病などの発症が予測される場合の使用

花粉,ハウスダスト(室内塵)などによるくしゃみ,鼻水,鼻づまり,頭重等のアレルギー症状の発言の予防 等

生活の質の改善・向上

発毛,禁煙補助,不眠,軽い尿もれ,肥満 等

健康状態の自己検査

侵襲がないか又は少ない測定項目 等

軽度な疾病に伴う症状の改善(一般用医薬品として承認前例がないもの)

創傷面の可能の防止・改善,膣カンジダ(膣のかゆみ,おりもの)の改善,口唇ヘルペスの改善

〈いずれも外用剤> 等

 

 従来,何回か一般用医薬品の振興策が提起されたが,いずれも実効をあげるにいたらなかったのは,成分のイノベーションがなかったことも一因と私は考えてきた.今回の提言は大英断と歓迎したい.しかし,健康食品と特定保健用食品のここまでの伸長をみるにつけても,遅きに失したといわざるを得ない.

 また,提言は,これらの範囲拡大は医療用医薬品のスイッチに期待している.しかし,これも従来のスイッチOTCが必ずしも成功していない点を考えると,ただ手を拱いているでけでは,期待どうりに進展するとは考え難い.

 今までは,生活習慣病やQOL改善は,健康食品や特定保健用食品の独壇場であったが,今後は一般用医薬品が進出する機会が与えられたのである.健康食品や特定保健用食品と互角に競争し,いや,むしろ競争優位を実現するために国民にとって魅力ある,お金を投ずるに値する一般用医薬品にしていくことが要めであろう.国民は現在でも約2兆8千億円をセルフメディケーションに投じているのである.価値ありと思えば,一般用医薬品よりもはるかに高価な健康食品を購入しているのである.

 健康食品や特定保健用食品と優位に競争するためには,詳述しないが,店舗づくりを含めた魅力あるマーケティング戦略も重要であることはいうまでもない.

 一方では,症状の安定している生活習慣病に使用される安全性の高い医療用医薬品,また安全性の高いQOL改善に使用される医療用医薬品などは,保険給付から外して,積極的にスイッチOTC薬にすることも一つの選択肢になろう.医薬分業の進展と,長期投与の解禁により,医家の収入への影響も一時よりもはるかに少なくなっている筈である.医家に対しては,診療報酬面での代償措置も考えられよう.ただ,患者へのインセンティブ,患者にとってのメリットをどう実現するかは,一つの課題であろう.

 セルフメディケーションにおける一般用医薬品のプレゼンス向上策はこの他にもいくつかあるに違いない.しかし向上策の実現に当局による政策誘導を一義的に期待するのは不毛の結果に終わるであろうことは,前例が示している.ここは,業界・企業の自主努力で,患者・国民を巻き込んで,国も,業界も,国民もお互いに,いくらかの代償をはらいながらも,win winの関係で一般薬を振興する具体策を模索することであろう.

 セルフメディケーション市場構成を見て,中間報告を見て,今度こそ一般用医薬品が正しく社会に受け入れられる絶好の機会であると感じ,期待を込めて一文を草した次第である.

YPC)






著者より

年の瀬も詰まってまいりました.皆様お元気にご活躍のことと存じます.今年最後の,12回目のメモをお届けします.

 今年一年を振り返ってみますと様々なことがありました.思いつくままに拾ってみます.

 診療報酬のマイナス改定,薬価改定,後発品使用への政策誘導,医療費抑制に向けてのこれらの施策の行方は今後とも目が離せないと考えられます.診療報酬マイナス改定への巻き返しがどの程度の影響力を持つかは,今後の動向を予測するためには重要なポイントになるに違いありません.後発品上位企業が営業成績を伸ばしていることも見逃せません.

 医薬品産業ビジョンの発表では,国家戦略としての医薬品産業の位置づけ,育成策,そして産業界の自己努力への要請など方向性の明示は評価されます.一般薬検討会の中間報告で一般薬の範囲の見直しを提言しているのは,遅きに失した感もありますが,歓迎すべきと考えられます.今後の課題は,これらの政策提言をいかに実現に結びつけるか,ということでしょう.

 いくつかの企業で,コア事業である医薬品に集中するために,周辺事業を分社化,他社との統合,あるいは売却がおこなわれた,またおこなわれつつあることも今年の特徴だったと思います.競争力の強化,開発資源の集中などの必要性がこれらの動きを加速したことは疑いありません.アウトソーシングが生産から販売にまで進んだことも見逃せません.ただ,いくつかの問題点も指摘されていますので,それらの克服が今後の課題かもしれません.

 中外製薬のRoche傘下入り,臨床候補品の海外導出,抗体医薬やARBへの注目,シンガポールへの投資などなど話題は尽きません.

来年は,不景気風が吹く日本経済界の中で,製薬産業がさらに元気で,人々に明るい展望を示すことを期待したいと思います.

 今月のメモはセルフメディケーションと一般用医薬品について書いてみました.どうぞ,皆様お元気でよいお年を迎えられますよう祈念申しあげます.



【発行元】 株式会社メドレット
【編集人】 小菅 博之
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