吉川医薬経済レポート 2004年1月号

Fabrazymeの承認――酵素補充療法の一つとして――



1.Fabrazymeについて

 Genzyme Japan社から申請されていたFabrazyme(一般名agalsidase beta)が,2003年11月28日の医薬品第一部会,12月11日の薬事分科会の審議を経て,2004年1月に承認される見込みとなった。 概要を表示する。

商品名ファブラザイム(Fabrazyme)
開発企業ジェンザイム ジャパン(Genzyme Japan)
一般名アガルシダーゼ・ベータ(agalsidase beta)
審査経過申請2002年
医薬品第一部会2003年11月28日審議
薬事分科会2003年12月11日審議
承認2004年1月見込み
欧米開発状況欧州2001年8月承認
米国2003年4月24日承認
適応症ファブリー病(酵素補充療法用医薬品)
剤型点滴静注用 5mg,35mg
用法・用量2週間に1回,1.0mg/kgを静注投与する。
区分希少疾病用医薬品(国内患者数:約200人)
承認条件可能な限り全投与症例を対象とした市販後調査
長期使用,小児等での有効性,安全性に関する特別調査
心ファブリー病への有効性,安全性の明確化を目的とした国内での市販後臨床試験

日刊薬業,シーマ・サイエンスジャーナル社資料,The Medical Letter(日本語版03.09.15.)によって作表した。



2.ファブリー病とファブラザイムについて

 ファブリー病(Fabry disease)とは,耳慣れない疾患であるが,先天的にα-ガラクトシダーゼA欠損が原因の遺伝性ライソゾーム貯蔵病である。 X連鎖性劣性遺伝疾患で,新生男児50,000人に約1人の割合で発症するとされている。 酵素欠損により,細胞内ライソゾームにグロボトリアオシルセラミド(GL-3)などの進行性蓄積がおこり,重度の腎,心,および脳血管障害を引き起こし,30〜50歳で若年死する。

 日本国内の患者は受療者約200人とされているが,潜在患者を含めると1,000〜3,000人程度ではないかといわれている。

 ファブラザイムは,遺伝子組換えによって生産されたヒトα-ガラクトシダーゼAであり,この酵素が欠損しているファブリー病患者に投与する酵素補充療法剤である。 細胞内に蓄積されたGL-3などを酵素分解して取り除く作用がある。 一般に忍容性がよいが,一過性の悪寒,発熱などがあるといわれている。 ただ,生涯この療法を継続する必要があり,費用がかかることが懸念される。



3.ライソゾーム症について

 ファブリー病以外にライソゾーム内酵素欠損によって発症するライソゾーム蓄積病は次のようである。

疾患名欠損酵素蓄積物質
糖原病ポンペ病α-グリコシダーゼグリコーゲン
脂質蓄積症βガラクトシダーゼ欠損症β-ガラクトシダーゼGM1
テイ・サックス病β-N-アセチルヘキソサミダーゼαGM2
サンドホフ病β-N-アセチルヘキソサミダーゼβGM2,グロボシド
AB型GM2ガングリオシドーシススフィンゴミエリナーゼスフィンゴミエリン
ゴーシェ病β-グルコシダーゼグルコセレブロシド
ファブリー病α-ガラクトシダーゼグロボトリアオシルセラミド
異染性白質ジストロフィーアリルスルファターゼAスルファチド
マルチプル・サルファターゼ欠損症不明スルファチド,ムコ多糖
グラッペ病ガラクトセレブロシダーゼガラクトセレブロシド
ファーバー病セラミダーゼセラミド
ウオルマン病酸性リパーゼトリグリセリド,コレステロールエステル
コレステロールエステル蓄積症酸性リパーゼトリグリセリド,コレステロールエステル
ムコ多糖症ハーラー症候群α-イズロニダーゼデルマタン硫酸,ヘパラン硫酸
シャイエ症候群α-イズロニダーゼデルマタン硫酸,ヘパラン硫酸
ハンター症候群イズロン酸スルファターゼデルマタン硫酸,ヘパラン硫酸
サンフィリッポ症候群グルコサミントランスエステラーゼ等ヘパラン硫酸
モルキオ症候群ガラクトシダーゼ等ケラタン硫酸
マロトー・ラミー症候群アリルスルファターゼBデルマタン硫酸
βグルコニダーゼ活性低下症β-グルコニダーゼデルマタン硫酸,ヘパラン硫酸
オリゴ糖症アスパルチルグルコサミン尿症アスペルチルグルコサミニダーゼアスパルチルグルコサミン
シンドラー・神崎病α-ガラクロサミニダーゼガラクトサミン,オリゴ糖
α-マンノシドーシスα-マンノシダーゼマンノースオリゴ糖
β-マンノシドーシスβ-マンノシダーゼマンノースオリゴ糖
フコシドーシスα-フコシダーゼフコースオリゴ糖
シアリドーシスシアリダーゼシアリルオリゴ糖
ガラクトシアリドーシスカルボキシペプチダーゼシアリルオリゴ糖
I-細胞病ホスホトランスフェラーゼシアリルオリゴ糖
ムコリピドーシスIII型ホスホトランスフェラーゼシアリルオリゴ糖

ロイコジストロフィー・ネットワークのhttp://www.jura.jp/leuko1/disease/lysosome/lysosomal_j.htmを参考に一部改変して作表した。

 上の表の疾患はいずれも患者は少ないが,適当な治療法が確立していないものが多く,蓄積したライソソームを加水分解する酵素の医薬品としての登場が待たれている。



4.酵素補充療法剤――既存品と開発途上品

 日本において,Fabrazyme以外にすでに,ゴーシェ病治療薬としてセレザイム(Cerezyme)(一般名imiglucerase)が上市されている。  欧米では他に2品目が上市されているが,開発途上品を含めて表記する。

商品名一般名開発企業対象疾患開発状況
CerezymeimigluceraseGenzymeゴーシェ病市販
Fabrazymeagalsidase betaGenzymeファブリー病市販
Replagalagalsidase alfaTranskaryoticファブリー病欧市販,米・日申請
AdurazymelaronidaseGenzymeハーラー症候群欧・米市販,日未開発
AryplasearylsulfataseBioMarinマロトー・ラミー症候群欧米P-3,日未開発
 idursulfataseTranskaryoticハンター症候群欧米P-3,日未開発
Myozymeα-glucosidaseGenzymeポンペ病欧米P-3,日未開発
LysodasePEGimigluceraseGenzymeゴーシェ病欧米P-1,日未開発

日経バイオ年鑑2004,各社ウェブサイト,PharmaProjects2003.11.によって作表した。

 この領域で,欧米に比較して日本の立ち遅れが顕著である。 たしかに患者数は小さいがいわゆる難病であり,苦しんでいる方々を思えば速やかに欧米並みに開発が進展することを望みたい。



5.むすび

 酵素補充療法剤に関しては,いまだ市場規模を展望する段階にはないし,またそう大きな市場になるとは考えられない。 しかし,バイオ医薬品の一つとして単価が高いと予測され,企業としてはそれなりに高収益製品になるであろう。

 また,酵素補充療法剤の治療分野への出現は,これらの酵素を工業的に生産する技術が成熟してきたことが,大きな要因になっている。 酵素の工業的生産は,今後の原薬工業界で新しいジャンルを拓いていくことであろう。





著者より

明けましておめでとうございます。 皆様にもご多幸に新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。 今年もどうぞよろしくお願いします。

 このメモは昨年末に脱稿しておりましたが,皆様への発送が遅れてしまいました。

 医療費改訂問題も診療報酬はゼロ,薬剤・材料費1%削減というところで決着し,ほぼ,読みの範囲内と皆様ともどもほっとしました。

 昨年はいろいろありました。 PfizerがもうM&Aをおこなう必要はないと公言しましたが,その舌の根が乾かぬうち,年末には米国のベンチャー企業の買収話しが持ち上がっています。 よい製品であれば朝令暮改も辞さぬということでしょうか?その逞しさは見習うべきかも知れません。

 また,ご存じのように,12月には藤沢の青木社長が2010年を目標にグローバルメガ企業を目指すと公言しておられます。 日本の大手企業の全てが同じ思いを持っておられると拝察しますが,敢えて公言なさったところに,その決意のほどが現れていると感じました。 成果を祈りたいと思います。

 医薬品産業の地位の向上も目を瞠るばかりです。 日本の高収益産業として,広義の情報通信分野,自動車産業とならんで医薬品産業が登場してきています。 それかあらぬか,産業界の新聞,たとえば日経産業新聞や,化学工業新聞の紙面での優先順位がここ数年であがり続け,占有ページも増加してきています。 今後数年間にライフサイエンス産業はIT産業を抜いて日本の基幹産業になると予想されていますが,その中核は医薬品産業であることは間違いありません。

 たしかに,国内の医療用医薬品市場は伸び悩み,一般用医薬品市場は縮小の一途を辿っています。 医療費の抑制は厳しくなることはあっても,緩和される見通しはありません。 「艱難なんじを玉にす。 」とか,このような状況下にあってこそ医薬品産業,そして個々の企業の真価が発揮されると期待しております。

 また,昨年はバイオ医薬品のジェネリック化が欧米で論議された年でもありました。 第1世代のバイオ医薬品の特許満了が進行中ですが,審査当局はジェネリックに肯定的と聞いております。 これは,蛋白質の同定関連の技術の進展により,先発品と後発品の同等性が用意に判定できるようになったことが背景にあるそうです。 2〜3年前には考えられなかったことです。

 このようなバイオ関連技術の進歩の速さは,SARSにも端的に現れました。 SARS――新型肺炎と認識されてから1か月あまりでSARSウィルスの全ゲノム解析が終了し,すでに治療薬とワクチンの臨床入りも近いと聞いております。 また,空港で30分待てば結果が出るSARS検査薬も1年足らずで開発されました。 医薬品開発のイノベーションが目に見えないところで着々と進んでいるように感じられます。

 さて,今回のメモは,酵素補充療法剤Fabrazymeについて書いてみました。 規模の小さな医薬品かもしれません。 しかし,今後の医薬品の一つのあり方を示しているようにも思われます。

 暖冬とはいえ,冬は冬です。 皆様のご健勝でのご活躍を祈念申し上げます。

                

(2004.01.15.YPC)



【発行元】 株式会社フクミ メディカルメディア
【編集人】 小菅 博之
【お問合せ】mm@fukumi.co.jp
【著 者】 吉川 徹
【お問合せ】内容に関する質問・仕事依頼は、著者に直接お問い合わせください。
336-0021 さいたま市南区別所2-32-13 吉川医薬研究所代表 吉川 徹
FAX(専用):048-865-1346  E-mail:yoshkawa@ra2.so-net.ne.jp
【メルマガ以前の号】  http://www.fukumi.co.jp/mm/topic/news_tag.htm
【メルマガ購読・中止】 http://www.fukumi.co.jp/mm/topic/mailmg_ty.htm
【注 意】 Hotmailで受信される方は、Outlook Express/Outlook で御覧ください。
  Hotmailでhtmlメルマガを受信する場合、一部不具合が発生し、この吉川レポートの
  場合も正常表示されません。 他のメールアカウントに転送してもokです。
【執筆希望者募集】
 コンテンツ充実のため、執筆希望者を募集しております。 メルマガ・レポート等


まぐまぐ